越境について。土地や樹木が越境している場合の対応方法とは
普段、隣の家や土地との境界線を意識していますか?不動産ではしばしば「越境」による近隣トラブルが発生します。不動産売買をする際には越境の問題が妨げとなって売買ができないという事態もあり得るのです。
今回は越境による、よくあるトラブルの事例を見ていきながら、注意点や予防策についてご案内いたします。
越境とは
越境とはその名のとおり敷地の境界線を超えることです。法律的に定められた領界を無視して人や物が立ち入る行為を指します。
不動産における越境とはどういう場合を指す?
物が隣の敷地との境界線を超えて(地上・空中・地中)しまうことを不動産業界では越境と呼んでいます。どこからどこまでが自分の土地か?という境界線が登記簿に記載されているわけですが、しばしばそれが無視されてしまうことがあります。
たとえば、境界があいまいなまま工作物(建物)を造ってしまったり、樹木の枝や根が伸びて隣接地との境界線を超えてしまったりというケースが多いです。越境の種類による対応の違い
越境にはさまざまな種類があり、それぞれ対応方法も異なります。代表的な例を3つ挙げ、それぞれ対応方法について考えてみましょう。
樹木の「枝」が越境している場合
特にありがちなのは樹木が育って枝が越境してしまうケースです。このようなケースでは、隣の敷地から枝が伸びてきて、自分の敷地に入り込んでいる。つまり越境されている側の人は、樹木の所有者に対して切除をさせることができます。これは民法でも定められています。
民法233条1項
隣地の竹木の枝が境界線を超えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
相手が枝の切除の要求に応じない場合の対応方法
樹木を越境させている人は、隣接地の所有者から切除をするよう要請があった場合は応じなければいけません。
もし要求に応じなければ、被越境者は越境者に対して裁判を起こし、強制履行を請求することができます。それでも応じない場合は、代替執行(強制執行)として自らが切除し、相手に費用を請求することも可能です。
この根拠として、民法414条第1項の「履行の強制」が挙げられます。
民法414条1項
債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りではない。
ただし、注意をしてほしいのは、枝がただ越境線を超えているだけでは樹木を切るよう要求するのは難しいということです。
民法233条で越境している樹木を切除するよう要求する権利が認められているのは前述のとおりですが、だからといって越境している枝をなんでもかんでも切除させるのは「権利の濫用」にあたると考えられます。
民法1条3項
権利の濫用は、これを許さない。
隣接地の所有者に対して、越境している樹木を切除させるためには、「越境していること」と、「越境している樹木によって何らかの被害を被っていること」という2つの要件が成立している必要があるというのが一般的な考え方です。
枝越境による実質的な被害の要件
昭和39年12月22日の新潟地裁で行われた裁判の判例によると、枝の越境を理由に樹木の切除を請求できる要件として、「単に枝が越境しているだけでなく、枝の越境によって明確な被害が生じている」「枝を伐採することで、依頼者が回復する利益と樹木の所有者が受ける損失に不当な差がないこと」の2つが挙げられています。
明確な被害というのは、例えば落ち葉が大量に舞い込むことでバルコニーの排水口が詰まってしまったり、建物が腐食するなどの劣化被害が発生していたりする、あるいは枝に虫が大量に集まり、害虫の駆除をしなければいけない状況が起きているといったものが挙げられます。
枝越境に関して注意しておきたいモデルケース
枝越境に関してよく起こりがちなトラブルのモデルケースをQ&A形式で3つ見てみましょう。
民法206条
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物を使用、収益及び処分をする権利を有する。
樹木の「根」が越境している場合
樹木の根が越境している場合、越境されている土地の所有者がそれを切除することができます。しかも、枝とは異なり樹木の所有者の承諾なしに切除することが可能です。
民法233条2項
隣地の竹木の根が境界線をこえるときは、その根を切り取ることができる。
根越境による被害への対応方法
ただし、枝と同様なんでも切除してしまうのは、権利の濫用にあたる可能性があります。明確な被害が生じていることが要件です。
勝手に切除してしまうことで、寧ろ木が枯れてしまうといった理由で損害賠償を請求されるリスクも考えられます。
基本的には枝であれ、根であれ、相手方としっかり話し合いをして、お互いが不利益を被らないよう相互協力することで、物事の円満解決につながります。
土地の越境
境界標がない土地では、知らず知らずのうちに隣の土地へ建物や樹木などが越境している場合があります。
土地が越境しているかどうかの確認方法
越境しているかどうかは境界標があればわかりますが、もしなければ不動産登記簿謄本あるいは図面などの過去の資料で確認することができます。境界線の位置を確定し、できれば境界確認書などを作成して、隣接地の所有者とお互いに保有することが望ましいです。
土地の越境があった場合の対応方法
仮に越境があった場合は越境物の撤去と越境部分の返還を求めることができます。これは所有権に基づく妨害排除請求権で認められています。
例えば隣地所有者が越境部分にブロック塀を設置していたとしましょう。この場合はブロック塀を撤去させて、尚且つ越境部分を返還するよう請求することができます。
土地の越境に関しての注意点
越境部分にある物の撤去などにかかる費用は、越境している側が負担することになります。仮に「費用を少し持ってくれませんか?」と言われても応じる必要はありません。
2種類の境界「筆界」と「所有権界」
さて、これまで越境について解説してきましたが、そもそも土地の境界には2種類存在し、その違いを意識しておくことが重要です。「筆界」と「所有権界」という境界の考え方についてご説明します。
公法上の境界である「筆界」
筆界とは法律上で定められた土地の境界のことです。筆界とは以下のようなものを指します。
不動産登記法123条
表題登記がある一筆の土地(以下単に「一筆の土地」という。)とこれに隣接する他の土地(表題登記がない土地を含む。以下同じ。)との間において、当該一筆の土地が登記された時にその境を構成するものとされた二以上の点及びこれらを結ぶ直線をいう。
筆界は筆界調査委員会と法務局職員が土地の実地調査や測量などを踏まえ、法務局の筆界特定登記官に提出し、筆界を特定するという流れで定められます。一度特定した筆界は勝手に変更することはできません。
私法上の境界である「所有権界」
上記のような公法上の境界である筆界とは別に、私法上の境界である「所有権界」というものも存在します。そもそも、土地の所有権は諸説ありますが明治初期頃とされてきました。それまでは話し合いで土地の境界が決められていたのです。
「ここからここまでは先祖代々の土地」というように、決められた境界は筆界と異なる場合もあります。こうして現在まで所有権界が伝承されていて、土地の利用もそれに倣っているケースも少なくありません。
越境・被越境にてトラブルを避けるために
越境・被越境のトラブルを避けるためには、筆界特定などで境界を明確にして隣接地の所有者と冷静に話し合いをして合意を得る、協議の内容を書面化して証拠を残しておくといった対応が重要です。仮に越境されていたとしても、勝手に物事を進めると自分が悪者になってしまう危険性もあるので、注意してください。
越境している・されている物件の売却はトラブルが発生するリスクが高いため容易ではありませんが、東京土地開発株式会社ならそういった物件も積極的に買取っています。越境物件でお困りなら、ぜひ私たちにご相談ください。
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